
2025年6月2日に開催された第48回岩の力学連合会社員総会ならびに臨時理事会におきまして,理事長に選任されました.私は2017年から2年間,常務理事を務めせていただきましたが,幹事長や副理事長の経験はありません.経験豊富な佐藤副理事長と木崎幹事長をはじめ,理事や代議員の皆様にサポートいただき,本会の発展に微力ながら貢献できればと思います.前三役の皆様,2年間大変お疲れ様でした.前理事長の岸田先生には,ISRMのVice Presidentとして,前幹事長の升元様には常任理事として,引き続きご協力いただけることになりましたのは心強い限りです.
まずは,私の「岩の力学との出会い」についてお話させていただきます.出会いは大学3年生のときでした.必修の授業科目の一つとして「岩石力学」がありました.当時は,非常に変わった科目名だと感じたとともに,岩にも力学があるということを知り驚きました.担当教員は後に恩師となる石島洋二先生でありましたが,「岩の力学とは割れ目の力学である」ということを強調されていたことが思いだされます(当時はその意味をあまり理解していませんでしたが・・・).その後,4年生になり岩石力学講座(現岩盤力学研究室)に配属となり,岩石の三軸試験が卒論のテーマになりました.直径30mm程度の岩石供試体を破壊させるのに,これほどまで大掛かりな試験装置を使用するのかと驚きました.特に岩石供試体をセットする圧力容器の重さは想像以上で,先輩から「筋トレをしておけ」と言われたことは忘れられません.卒論の実験を通じて,岩石の体積変形の挙動から,岩石内部で起きているイベントが推定できることに非常に興味を持ち,修士課程,博士課程へと進学しました.そして,疲労破壊を中心に,岩石の破壊プロセスやメカニズムに関する研究に取り組みました.大学の教員になってからは,数値解析やフィールド計測なども実施してきましたが,振り返りますと,学生時代に覚えた「感動」や「興味」が私にとっては非常に重要だった思います.以上にお話させていただきましたように,岩の力学との出会いは私にとって驚きでしたが,最も驚いたのは,私が岩の力学連合会の理事長に選任されたことです.
話は変わります.先の総会でのご挨拶の折にもお話させていただきましたが,私が感じる本会の魅力は,「国際的な活動を展開できること」と「分野の異なる会員と交流できること」の2つです.本会はInternational Society of Rock Mechanics and Rock Engineeringという国際組織を支えるNational Groupsの1つであり,中国や韓国と並び,アジアを牽引してきています.2026年の11月にARMS15が福岡で開催されるのはご存じのことと思いますが,過去には京都と札幌で,それぞれARMS3とARMS8が開催されています.また,1995年には第8回ISRM Congressが東京で開催されています.私もARMS8では学術部会の幹事長を務めさせていただきましたが,国際会議の企画・運営などを通じて,海外の研究者や技術者と交流できるのも本会の魅力であると感じました.今年の6月にはノルウエーのトロンハイムで開催されたEUROCK2025に参加し,Council Meetingにも出席してきましたが,ISRMでの活動を有利に展開するために,世界に通用する人材の育成を組織的に取り組んでいる国が多いように感じました.将来を見据えた人材育成の重要性を再認識した次第です.以上,国際的な活動のお話をさせていただきましたが,もちろん,国内での活動も重要であることは言うまでもありません.会員の皆様におかれましては,ご自身のスタイルや興味に沿った形で活動いただければと思います.
二つ目の魅力である,「分野の異なる会員の交流の場」に関してです.会員には,土木分野の方と資源分野の方がおり,さらに材料分野や地球物理学をベースとしている方もいらっしゃると認識しています.分野の違いにより,岩石・岩盤に対する考え方やアプローチの手法は異なります.例えば,道路トンネルや鉄道トンネルなどを対象とした土木分野では,トンネルは永久構造物として設計・施工・維持管理されるのが普通かと思います.一方,鉱山の坑道を対象とした資源分野では,一部の基幹坑道を除き,坑道は採掘している間に自立していれば良いと考え,経済性を考慮して支保パターンを決めます.また,ロングウオールによる採炭では,石炭の採掘により形成される空洞は,天盤等の崩落により充填された方が安定すると考えます.このような違いを認識しつつ,お互いの長所を取り入れることが,きっと双方に利があるでしょう.各種イベント等の交流の場において,積極的に情報・意見交換いただければと思います.
最後に,私の任期中の2年間の抱負について述べさせていただきます.基本的には,将来構想2016に基づき,ロードマップ2030を更新していく所存です.ご存じの方も多いと思いますが,将来構想2016は,「岩の力学連合会の位置づけの明確化」,「事業活動に関する提案」,「財政改革に対する提言」について議論された内容を取りまとめたものであり,先人の知恵と経験が詰まっております.時代のニーズや本会の現状に応じて,内容を見直しつつ,主に次の事項に取り組みたいと考えています.一つ目は「会員の増強」です.本会の運営を円滑にするには,会員の増強が必要不可欠であることは言うまでもありませんが,資源系の賛助会員が少ないのが現状です.個人会員に加え,石灰石,非鉄金属,石油などの資源分野の賛助会員を少しでも増やせればと思っています.二つ目は「アジアのNational Groupsとの連携の強化」です.上述しましたが,2026年の11月に福岡でARMS14が開催されます.ARMS14の成功にはアジア諸国の協力と支援が重要と考えます.各国の状況を分析したうえ,個人レベルからNational Groupレベルまでの多様な学術・技術交流を推し進めたいと思います.三つめは「ISRMの中核を担う人材の育成」です.これには, 若手会員がISRMにおいて評価・認知される機会を設けることが肝要と考えます.若手会員に,国際会議などの企画・運営を主導していただくことはもちろんですが,ISRMのCommissionやFedIGS (Federation of International Geo-engineering Societies)のJTC (Joint Technical Committee)などにも積極的に参画いただき,彼らの活動を支援することが必要になると思っています.
以上,私見を述べさせていただきましたが,会員の皆様のご指導ご鞭撻をいただければ幸いです.
第23 代 理事長 児玉 淳一(2025 ・2026 年度期) (北海道大学)