2023年6月16日に開催された第46回岩の力学連合会社員総会ならびに臨時理事会におきまして,奥野前理事長から引継いで理事長に選任されました.責任の重さに改めて身の引き締まる思いです.会員の皆様のお力添えも賜りながら,微力ながら岩の力学および関連分野の発展に努めて参る所存ですので,何卒よろしくお願い申し上げます.
総会での挨拶時にお話しましたが,私は初代の理事長水越達夫博士(1979~1981年度期)から数えて22代目の理事長になります.初代,水越達夫博士は,ちょうど私と同じ土木学会から推薦の理事長になります.土木学会の岩盤力学委員長を経て,65代の土木学会の会長を務めておられます.土木学会のWebsite*には,水越達夫博士の紹介が記されています.水越博士は,1936年東京大学土木工学科をご卒業され,大日本電力に入社,その後,日本発送電を経て1951年東京電力に勤められ,梓川・高瀬川の水力開発計画など,戦後の電力不足の中,水力発電所の開発に多大な貢献をなされた方です.水越博士は,東京電力の建設部長に着任される前,鬼怒川水力建設にかかわっておられるようです.
鬼怒川は,利根川水系の最大の支川で,昔から水害の絶えない河川でした.鬼怒川の水量を一定にするため,大正時代に黒部ダムが建設され,川俣ダムや五十里ダムの開発が進められてきました.鬼怒川水力発電は,日露戦争後に鬼怒川水系に3カ所の発電所の建設を企画していましたが,下滝発電所を開発し,水不足調整用の黒部ダムの水を利用して発電が行われていたようです.この黒部ダムは,大正時代に造られた日本初のコンクリートダムだそうです.水越さんがかかわられた鬼怒川水力建設は,おそらく,戦後の首都圏の電力不足を解消するため,下滝発電所の大規模な改修を行い,鬼怒川発電所へと名称を変更して,発電能力を4倍にした,というような時代だったのではないかと推察します.その後,昭和41年川俣ダムの竣工に伴い,川俣発電所が新設され,その後,昭和63年今市発電所が動き始め,鬼怒川は一大発電地帯となっています.
水越博士が岩の力学連合会の理事長に就任されたのは,時代の要請であり,「岩の力学」が社会から求められていた学問であった証であると考えます.1979年から2000年まで10名の理事長が就任されていますが,その内訳は,学が6名,産官が4名となります.学と産官がバランスの取れた担当となり,「岩の力学」が実際の問題解決に必要な学問であることを示していると考えます.特に土木学会からの推薦の理事長4名は,いずれも産官の所属の方でした.
ご存知の通り,岩の力学連合会は,土木学会,地盤工学会,資源・素材学会,日本材料学会の4学会のそれぞれの岩の力学の研究連絡委員会として発足し,その目的は,ISRMの国内窓口の役割を担うという事でした.このことは,今も変わっていません.
社会の要請に応えてきた岩の力学連合会,世界との窓口として活動してきた岩の力学連合会ですが,現在はどうでしょうか.残念ながら,私が幹事長を務めていた頃から比べて,個人会員は約10%強の減少です.本年度の予算は総会で承認いただきましたが,赤字予算をご提案することになっており,代議員から厳しい意見が出されています.私が幹事長の頃も赤字体質でしたが,国際会議を開催し,その際に生じた余剰金でカバーしている状況になっています.これが,今回のコロナ禍では,国際会議やイベント開催もままならず,一方で会議等のアクティビティが減少して,うまくバランスしているという状況です.皮肉なものです.何とか次代に繋ぐには,適正な会員規模を考えながら,収支はバランスするような団体となるよう考えていかなければなりません.
「将来構想2003」,「将来構想2016」など,10 年程度先を見据えた中期的視野での組織の運営・改善が進められてきました.「中長期的視野に立った国際会議の企画」は,2024年1月に日韓ジョイントシンポジウム,2024年11月にはTHMC連成解析の国際会議が京都で企画されています.このような国際会議は,日本のプレゼンスを国際的に示すとともに.将来構想で検討されてきた若手研究者・技術者への参加に対する支援がなされており,連合会が掲げる目標に合致するものです.一方で,会員サービスの向上による新たな会員の加入ですが,残念ながら十分に結果が出ていない状況です.新たな会員が加入するには,若手会員や女性会員が増えるには何をなすべきか,理事会での議論を通じて考えていきたいと思います. ICOLDやWTCは盛況で,毎年多くの日本人が参加しています.一方,岩盤の国際会議,例えばUSRockは毎年開催されますが,日本人の参加者は非常に少ないのが現状です.岩の力学は,社会の要請に応えてきたと述べましたが,ICOLDやWTCの盛況を見ていると,産業界の期待に十分応えているのだろうか疑問を感じざるを得ません.会員の皆さんと十分な議論を重ねながら,次代の扉を開くようにしていきたいと思います. *:http://www.jsce.or.jp/president/successive_president.shtml(2023年6月30日閲覧)
第22 代 理事長 岸田 潔(2023 ・2024 年度期) (京都大学)